建物を造る為に、必要な要素が三つ有ります。一つは、建物を発注する建築主、二つ目は、それを図面にする設計者、三つめは、設計図面を基に工事を行う施工者です。
建築は他の業種、分り易い例では、車やテレビ等とは異なり、その多くは受注生産です。
以前、前もって工場生産された建物(集合住宅など組立建築)が、注目された時期が有りましたが、普及しませんでした。建設業が受注産業であること。そのことが最大の弱点で有り、強みにもなります(強みになる確率は非常に低いのですが)。一般的な商品であれば、ある時期のプリウスやパジェロミニのように、生産が追い付かなければ、お客さんに「少々お待ち下さい。」と普通に言えるし、オプションで追加が有れば、「別途料金を頂きます。」と当り前の顔で請求できます。
話は変わりますが、私が会社(ゼネコン)に入社したのは、昭和44年(1969年)です。その当時でも、既に生コン打ちのポンプ車、揚重用のレッカー車、測量用のトランシット等は存在していました。それでは、建物を造るうえで、大幅に進歩(或いは、画期的に変化)したものは何だったのでしょうか。第一は、コンピューターを利用した通信機器類が有ります。次に、設計図を描く際のCP機器類(ソフト類)の汎用が有ります。その進歩には、驚きを通り越して、「浦島太郎状態」の感が有ります。しかし若い皆さんにとって、そうした機器類は、学校や生活の中で、日常的に使用されて来ましたから、就職して、いざ活用の段になっても、抵抗なく使用することが出来る筈です。また、物事に対する情報量の多さについては、言うに及びません。設計図(または施工図)には、どんな曲線も自由に描けるし、製作する側も大抵の製品をミリ単位の誤差で、三次元的に把握し製作することが可能になりました。しかし問題は、そのような利便性とは反比例するかの如く、納期面(工期)と原価面(価格)の両面について、どんどん苦しくなって行くように、私には感じられます。何故なのでしょうか。「当り前」と考えずに、偶には真剣に考えて見ては如何でしょうか。私なりの回答は、有るのですが言いません。何故なら、言うと若い皆さんに対して、角が立つのです。(津坂)