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ケアミックス:多様性と融合がもたらす新たな福祉の形

2024年3月6日

1.はじめに

 近年、福祉施設のあり方が変わりつつあります。かつては単独の機能を持つ施設が主流でしたが、2018年頃から、高齢者ケア、障がい者支援、保育といった様々なサービスを一つの施設で提供する「ケアミックス」が注目されています。このブログでは、ケアミックスがもたらす多様性と融合が、利用者や地域社会、事業者にどのような影響を与えるのかを考察します。

2.ケアミックスの出現背景

 高齢者ケア、障がい者支援、保育といった異なるサービスを一箇所で提供するケアミックスの考え方は、福祉資源の効率的な活用や、世代間・多様性の融合を通じて、利用者にとってより良い影響をもたらすという考えに基づいています。建物のバリアフリー化だけでなく、意識のバリアフリー化も目指し、多様性の中で成長することの重要性が強調されています。

3.利用者へのメリット

 ケアミックスでは、多世代交流による様々なメリットが期待されます。高齢者にとっては、児童等との交流がコミュニケーションや生活にメリハリを与えることが考えられます。児童にとっては、障がい者や高齢者と接することで、刺激を受けることで発達に良い効果が得られると考えられています。障がい者の発達にも良い効果が見込まれ、社会の中で生きる力が育まれます。機能訓練だけでなく、何かを作る活動など、画一的ではない楽しみや予想外の刺激が得られることも、様々な利用者にとって大きなメリットです。

4.ケアミックスを実現する施設の形

 ケアミックスは、施設の中にある様々な施設の中で交流が持たれることで、初めてその目的が実現されます。仮に隣接し、同じ敷地内にあったとしても、それぞれが独立した施設として存在してしまっては、世代間・多様性の融合は行われません。それらを誘発するためには、施設同士の交流の取組みと、複合施設で自然と交流が発生する環境づくりの両方が必要になります。交流というのは、児童施設の児童が高齢者の施設を訪問したりするようなイベントの企画や、高齢者施設での業務に障がい者施設の利用者に関わってもらうなど関わり方を指します。環境づくりというのは、高齢者・障がい者・児童が同じように利用できる庭園や、全ての人が自由に移動したり利用できる休憩所を準備することで、施設内外の方々が自然と接点や交流を行うことが出来るよう促すことです。このようにケアミックスを実現するためには、施設間での取り組みや、施設設計の段階での工夫が重要になります。

5.事業者の視点~スタッフの流動性~

 ケアミックスは事業者にとっても、様々な価値を生みだすと考えられます。一つは、人材を水平展開して活用することが可能となり、人材の流動性や効率性が高まるというメリットです。施設の間での人材の流動性を保つのは簡単なことではありません。児童施設のスタッフが、高齢者施設ですぐに働けるというわけではありません。ですが、人手があるだけで助かることがあるのもまた事実です。さらに地域の事情によって利用者の数が変動することも十分にあり得ます。そういった時に複数の施設を所有していることで、法人内でスタッフの働き方を調整することも可能になります。こういった人材面でのメリットは、介護職を志す人が限られている現状や、今後の労働人口の減少を考えたとき、非常に重要だと言えます。

6.事業者の視点~地域ブランディング~

 ケアミックスにより、さまざまなサービスを提供することで、ブランディングが可能となり、利用者が施設を選ぶ理由となることが期待されます。地域に根差した複数のサービスを展開することで、地域の人に取っては、何らかの施設を利用したことがあったり、知人が利用していたサービスであるという理由から、安心感が高まります。例えば高齢者が自分が利用する施設を選ぶとき、孫が通っていた児童施設とおなじ場所を選ぶこともあります。また、知人の家族が利用していた障碍者施設の評判を聞いて子どもを預ける児童施設を選ぶという事です。資産を集約することで、建物などの資源を効率的に利用し、コスト面でのメリットも見込めます。中長期的には高齢者施設は利用者が減少していくことが分かっています。そういった環境の中で、複合施設はより継続性の高い事業モデルであると言えます。

7.まとめ

 ケアミックスは、高齢者ケア、障がい者支援、保育といった様々なサービスを一箇所で提供することで、利用者に多様なメリットをもたらすとともに、地域社会との関わりを深め、事業者にとっても効率的な運営が可能となります。この新たな福祉の形が、これからの社会にどのような影響を与えるのか、注目が集まっています。


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